民事執行法の改正 ~強制執行の実効性が向上~

 

 知人にお金を貸したが返してくれず,返してもらうために弁護士に依頼して裁判を起こし請求が認められたとします。あるいは元配偶者から養育費の支払いを裁判所で認められたとします。この場合,お金は必ず払ってもらえるのでしょうか。実際には違います。今回はこのような場面で適用される法律である民事執行法とその改正について取り上げたいと思います。以下,債権者,債務者という言葉が出てきますが,お金を貸した場合であれば,貸した人を債権者(支払いを受ける側),借りた人を債務者(支払う側)と言います。

 債権者の請求が裁判所で認められると,債務者が任意に支払いに応じない限り,債権者は法律に従って自分で債務者の財産から裁判所で認められた金額を取り立てる必要があります。これを強制執行といい,その際の手続きを定めた法律が民事執行法です。

 債権者が強制執行しようとしても,債務者がどのような財産をもっているのかわからなければ,何を取り立てればよいのかわからず,強制執行できません。強制執行の対象となる代表的な財産は,現金,預金,給与,不動産ですが,強制執行のためには,債務者がどこに現金を保管しているのか,どの銀行のどの支店に預金を持っているのか,どの会社から給与をもらっているのか,どこに不動産を所有しているのかなどを知る必要があります。しかし,それを調べることは容易ではありません。

 そこで,民事執行法では財産開示制度が創設されていました。財産開示制度とは,債権者が債務者の財産状況を把握するため,債権者の申し立てにより,裁判所が債務者を呼び出し,財産状況を開示させる制度です。

 しかし,財産開示制度はあまり利用されませんでした。その主な理由は,裁判所からの財産開示の求めに債務者が応じない場合の罰則(30万円以下の過料)が低かったこと,債務者本人以外の第三者(例えば銀行)に情報開示を求めることができなかったことにありました。高額な財産を差し押さえられるより低額な過料を払った方が得であり,そうすれば財産状況は債権者に知られないと債務者が考えることが多かったのです。

 そこで,民事執行法が改正され令和2年4月1日に施行されました。改正では,まず罰則が過料(刑事罰ではないので刑事手続きに付されない)から6ケ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰に引き上げられました。これが適用されると債務者は刑事手続きに付される(前科がつく)可能性がでてきますので,かなりのプレッシャーになると思われます。

 次に債務者の財産状況について第三者から情報提供を求めることができるようになりました。具体的には預金であれば銀行などから,給与であれば市区町村などから,不動産であれば法務局から,それぞれ強制執行に必要となる情報を得ることが可能になりました。

 以上のように,不誠実な債務者に対する刑事罰の導入により債務者が財産開示に応じることが期待され,応じない場合は銀行などの第三者から必要な情報を取得することが可能になりました。それにより,強制執行の実効性が向上し,裁判所で支払いを認められた金銭はきちんと払われることが期待されます。

 貸したお金の返済や元配偶者からの養育費などを裁判所で認められたのに払ってもらえない場合などに参考になれば幸いです。

以上