多重債務問題との取り組み

~改正法施行・サラ金難民も

 消費者金融(サラ金)やクレジットなどから借金をして返済困難になった人を,借金などの債務が多重という意味で多重債務者と言う。消費者金融の利用者は1400万人を超えるとされ,実に国民の9人に1人が消費者金融の借金を抱えていることになる。

 さらに,このうち約260万人が3カ月以上,返済が滞り,返済困難に陥った多重債務者だという。生活苦や経済苦による自殺は1日当たり21人にも及び,多重債務に苦しむ自殺,夜逃げ,ホームレス,犯罪が増えて社会問題化した。

 多重債務に陥る大きな原因が,消費者金融などの高い金利だ。現在,我が国は銀行の普通預金金利が年0・1%にも満たない超低金利時代にあるが,つい最近まで,消費者金融業者などの大半は年30%近くの高金利となっていた。

 多重債務者の多くは自分の収入では,このような高金利の借金を返せない。返済のために別の高金利の業者から借金をする悪循環に陥っている。わたしの事務所には,どうにもならなくなった多重債務者が相談に飛び込んで来る。

 多重債務を解決する方法には,「任意整理」「自己破産」「個人再生」「特定調停」などがあり,それらを総称して「債務整理」と呼ぶ。最も検討することが多いのは,任意整理と自己破産だ。

 任意整理は裁判手続きを使わずに,弁護士が貸金業者と交渉をして進める。法律上の金利の上限は15%から20%だが,多くの方は消費者金融業者らに上限を超える利息を支払っている。そこで過去に払い過ぎた利息を返還してもらい,それを債務の弁済に充てたりして債務額を減らす。そして,減らされた債務額を金利を付けずに,分割で返済できるようにまとめる。

 貸金業者からいつから,どのくらいの期間借り入れ,取り引きが続いているかなどにもよるが,多くの人は任意整理で,債務額が大きく減ったり,場合によっては全くなくなることも少なくない。

 任意整理では解決できない場合,自己破産を検討する。自己破産は,裁判所を通して進める。消費者金融,クレジットからの借金や住宅ローン,教育ローン,マイカーローンなど,その人が抱えているすべての債務を洗い出し,その人の収入や資産では返済が困難であることを明らかにするような書類を整え,裁判所に申し立てる。

 裁判所は債務を抱えた経緯などから,破産を認めるかどうか判断する。その経緯が,例えば度が過ぎたギャンブルや遊行,浪費が原因であるなどという例外的なケースでなければ,多くの場合,自己破産は認められる。

 山陰地方は全国的にも多重債務被害が深刻だと言われる。

 わたしは山陰で数百人の多重債務者の相談を受けてきた。印象に残っているのは,自宅を改装するために金融機関から数千万円のローンを組み,消費者金融,クレジットからも数百万円を借り入れて返済できず,相談時には自殺をほのめかしていた方から,債務整理の依頼を受けたときだ。

 債務整理をした結果,債務額が約10分の1に減り,それをほぼ金利0%で返済する計画も認められた。その方は元気を取り戻し,順調に返済を続けている。

 ところで,上限金利を20%に引き下げ,借り入れ上限額は本人年収の3分の1までとする総量規制を定めた改正貸金業法が,今月18日に完全施行される。業界団体の調べでは,消費者金融利用者の約半数が今回の総量規制に抵触し,新規借り入れができなくなる。

 例えば,専業主婦は自分の年収がないので,この総量規制のため借入れができなくなるとされる。このように消費者金融業者から借りられなくなった人たちが,借入先を求めてさまよう「サラ金難民」が,今後は増加すると予想され,新たな社会問題となるおそれがある。現在,消費者金融などの借金に苦しんでいる方は,一人で悩まずに弁護士などの専門家に相談することを考えてはどうだろうか。