中小企業の事業再生

Q(質問)

 私は中小企業の社長をしています。このところ売上が減少して営業不振に陥り,金融機関などへの負債の返済に苦しむようになりました。

 当社は私が一代で築き上げた会社ですので,破産は絶対にしたくありません。メインバンクの銀行も支援すると言っています。

 このような場合,事業再生という方法があると聞きましたが,どのようにすればよいのでしょうか。

A(回答)

 事業を再建し存続させるための手続である事業再生には様々なスキーム(手法)があります。今回は中小企業の事業再生について,学習していきましょう。

【解説】

中小企業の事業再生の概要 事業再生とは,債務の返済が困難になった企業が,返済を一旦停止し,再生計画に基づき債権カットなどを行ったうえで,資産・事業の売却や事業の収益により,その後の返済を再開して事業の再建を図っていくことです。

 事業再生に臨む際には,様々なスキームの中から最も適したものを選択し,実行することが必要ですが,経営者が事業を継続する意欲と,一切の私財を投げ打ち経営者の地位を退任してもよいという覚悟を持つことや,従業員や金融機関などの協力も必要です。以下,詳しく見ていきましょう。中小企業の事業再生のスキーム 事業再生のスキームは,私的整理と法的整理とに大別されます。

 私的整理は事業再生をしようとする会社(債務者)と金融機関など(債権者)とが話し合いにより再建を進める方法です。

 法的整理は,裁判所の関与のもとに再建を進める方法です。それぞれにメリットとデメリットがあります。

 

私的整理

 私的整理のメリットは,処理が迅速,取引先を巻き込まないことが可能,手続が非公開であるため会社の信用の下落を避けられる,一般に費用が低額,などです。

 他方,原則として債権者全員の同意が必要でハードルが高い,非公開の手続であるため手続の公平性に欠ける場合があるなどのデメリットがあります。

 

法的整理

 法的整理のメリットは,裁判所の関与のもとで行われるため手続の公平性を確保できる,原則として債権者の全員ではなく過半数の同意で足りるためハードルが低い,などです。  他方,裁判所への予納金が高額になる場合がある,最終的な解決までに時間がかかる,手続が公開され,取引先の債権もカットの対象となるため事業の継続に支障を来す可能性があるなどのデメリットがあります。

 

中小企業の私的整理のスキーム

 私的整理には,中小企業再生支援協議会,企業再生支援機構,事業再生ADR,私的整理に関するガイドラインを利用するスキームなどがあります。

 中小企業に適しているのは,中小企業再生支援協議会を利用するスキームです。また近時は特定調停を利用するスキームが注目されています。

 ここでは,中小企業再生支援協議会と特定調停について説明します。

 

中小企業再生支援協議会

 中小企業再生支援協議会は,各都道府県の商工会議所等に設置されており,低額な費用で利用できます。 中小企業から利用の申出がなされた場合,相談窓口で第一次対応として,統括責任者や同補佐が助言や専門家の紹介などの対応をします。

 次に,第二次対応として,統括責任者らに弁護士などの外部専門家を加えた支援チームを編成し,再生計画案の作成を支援します。

 こうして作成された再生計画案について,金融機関などの債権者と協議を進めて同意が得られるように支援します。

 

特定調停手続

 特定調停は,従来,裁判所で個人の多重債務者が債務整理をするための手続として利用されてきましたが,近時,事業再生における活用が注目されています。

 特定調停は,法人も利用できる,手続が非公開,対象とする債権者を選択でき取引先を除く金融機関のみを対象にできる,裁判所での手続であるため手続の公平性が確保される,一般的に費用が低額,というメリットがあります。

 また,一定の場合には,事業の再建のために拘束力を有する調停条項を定めることができ,再生計画案に同意しない債権者を拘束することが可能,後述する民事再生と異なり,特定調停が終了するまで担保権の実行であっても停止させることが可能であることもメリットです。

 例えば,中小企業再生支援協議会を利用するスキームにおいて,再生計画案に,ほとんどの金融機関が同意しているのに,一行のみが反対しているとします。この場合,その反対している一行を相手方として特定調停を申立て,再生計画案を成立させるスキームが考えられます。

 なお,特定調停は裁判所での手続ですが,前述したように民事再生などの法的整理手続とは大きく異なるため,ここでは私的整理の一種として扱いました。

 

中小企業の法的整理のスキーム

 裁判所の関与のもとに手続を行う法的整理には,民事再生手続と会社更生手続があります。ここでは,中小企業が通常利用する民事再生手続を説明し,次に清算型手続である破産手続と事業譲渡のハイブリッド・スキームについて触れたいと思います。

 

民事再生手続

 民事再生手続とは,経営不振に陥った企業などの債務者について,債権者の多数の同意を得て裁判所の認可を受けた再生計画を定めることなどにより,債権の一部カットを行い,経営陣が事業を継続しながら再建を図るという手続です。

 債務者企業にとっては,債権が大幅にカットされ,分割での支払いが可能になるというメリットがあります。

 また,債権者の全てではなく,多数の同意で再生計画案が認可されますので,一部の金融機関が反対している場合でも可能です。

 債権者にとっても,破産に比べて弁済額が上回る,法的手続であるため税務上の貸倒処理ができるというメリットがあります。

 しかし,全ての債権者を対象にする必要があり,取引先の債権もカットされてしまうこと,民事再生手続をとったことが官報に公告され,事案によっては報道されるなどのデメリットがあります。

 

破産手続と事業譲渡のハイブリッド・スキーム

 破産手続は,裁判所の関与のもとに,債務者に財産があれば,それを債権者に平等に分配して事業を清算し,終了させる手続です。事業を終了させる点が民事再生と異なります。この破産手続と事業譲渡とを組み合わせるハイブリッド・スキームを,具体例を使って説明します。

 会社に採算部門と不採算部門とがある場合,採算部門を事業譲渡により新会社に承継させます。もとの会社(旧会社)は,不要な資産とともに事業譲渡の売却代金と負債の一部を残して破産により消滅させます。

 他方,新会社には,事業の継続に必要な営業債務などの一部を承継させ,新会社の営業を継続していきながら,債務の返済を行っていきます。

 このように,採算部門を活用して再建を図っていくスキームですが,事業譲渡における売却価格の設定が妥当でなければ,破産手続の中で破産管財人から否認され,事業譲渡が実現できなくなるおそれがあること,個別の財産移転行為が必要となるため,不動産の移転登記をする必要や不動産取得税が生じること,許認可が必要な事業であれば新会社において許認可を再取得する必要が生じることなどのデメリットがあります。

 

結語

 以上,中小企業の事業再生について,その概要,主なスキームとそれぞれのメリット,デメリットなどについて説明しました。事業再生には,法律的な専門知識が必要となることが多いので,なるべく専門家である弁護士に相談することをお勧めします。 

 

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